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2021年11月29日
2023年07月18日労災について
こんにちは。神奈川県福祉共済協同組合の蝦名です。
地球温暖化などの影響により、年々日本の夏の気温は上昇傾向にあります。
近年では、連日の猛暑日(最高気温35℃以上)に加え、気象庁の観測史上最高気温が更新されたのも記憶に新しいです。
そのため、暑さで体調を崩す方や、熱中症で救急搬送される方も増えています。
また、日常生活の中だけでなく、仕事中でも屋内・屋外を問わず熱中症になるケースが増えています。
万が一、従業員が業務中に熱中症にかかってしまったとき、会社は安全配慮義務違反を問われるのか、気になりますよね。
今回は、熱中症に対する安全配慮義務について、どのような対策が必要なのか、どのようなケースで違反になるのか、労災には認定されるのか、という点も含めて解説いたします。
また、企業ができる熱中症対策についてもご紹介いたしますので、ぜひ参考にしてください。
企業(使用者)は従業員(労働者)に対して、安全かつ健康に労働できるように配慮しなければならない義務があります。
これが労働契約法第5条に定められている「安全配慮義務」です。
企業は、労働安全衛生法や労働基準法などの法令に基づいて、 業務中の事故の防止対策 、安全衛生管理の徹底、 労働時間の管理の徹底など、労働者に対してさまざまな配慮を行う必要があります。
また、自社の従業員だけでなく、同じ現場で仕事をする全ての人を安全配慮義務の対象としなくてはならないことを念頭に置かなければなりません。
例えば、派遣社員、下請け企業の従業員などが想定されます。
さらに、自社の従業員が海外勤務中である場合も、安全配慮義務の対象となります。
従業員が業務中に負傷、疾病、障害、死亡した場合、その災害が業務に起因し、使用者の管理下で発生したと認められた場合は労働災害の対象になります。
さらに、企業に過失があると認められた場合は、安全配慮義務違反が問われ、大きなトラブルになりかねません。
安全配慮義務違反が認められた場合、根拠法である労働契約法上では罰則は設けられていませんが、従業員から損害賠償を求められたり、社会的信用を失う、作業がストップして損害が出るといったリスクが予想されます。
安全配慮義務違反と判断される基準には3つのポイントがあります。
これらの判断基準を踏まえて、確認していきましょう。
厚生労働省は「職場における熱中症の予防について」で事業者に、熱中症に対してWBGT値(暑さ指数)を活用するように通達しています。
WBGT値は、熱中症の危険度を判断する指標のひとつで、単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示されますが、その値は気温とは異なります。
黒球温度計などの専用器具を用いて気温、湿度、輻射熱の値を測定し、屋外で太陽照射がある場合、屋内もしくは屋外で太陽照射がない場合に分け、それぞれ数式に当てはめて算出します。
そのため、たとえ同じ気温であっても、湿度や太陽照射などが上がるとWBGT値が高くなり、熱中症になるリスクが高くなります。
ちなみに、WBGT値が33℃以上となると、熱中症の危険性が極めて高くなると予想される「熱中症警戒アラート」が発表されます。
気温とWBGT値の目安については、日本スポーツ協会が運動に関する指針として、次の数値を公表していますので、こちらも参考にしてください。
このようにWGBT値や熱中症警戒アラートなどにより、熱中症の発生が予測できる場合に何も対策を講じていないと、「予見可能性および結果回避性があった」にも関わらず、従業員の熱中症を起こしてしまったとして安全配慮義務違反に問われる可能性があります。
厚生労働省は、下記の5つの熱中症予防対策を挙げており、安全配慮義務に違反しないためには、各対策を講じる必要があります。
●作業環境管理
●作業管理
●健康管理
●労働衛生教育:作業を管理する者や労働者に対して、あらかじめ次の事項について労働衛生教育を実施する
●応急処置
これらの予防対策を実施しなかった結果、従業員が熱中症を発症し、負傷、疾病、障害、死亡した場合、安全配慮義務違反を理由として、被災した従業員やその遺族から損害賠償請求をされる可能性があります。
事業主に安全配慮義務違反があったと認められた判例として、平成28年1月21日の大阪高等裁判所の判決があります。
造園業を営む会社(使用者)の従業員が、真夏の炎天下で伐採・清掃作業をしている途中で熱中症を発症して死亡する災害が発生しました。
現場の指揮官である上司は、被災した従業員から体調不良の訴えを聞き、異変を認識したにもかかわらず、その後もしばらく被災した従業員の様子を確認せず、涼しい場所での休養などの指示もせずに放置し、熱中症による心肺停止状態の直前になるまで救急車を呼ぶなどの措置を取りませんでした。
本来であれば、現場の指揮官である上司は、日頃から高温環境下において熱中症が疑われるときは、被災者の状態を観察し、涼しい場所で安静にさせ、水分・塩分を取らせる、身体が熱いときは服を脱がせて身体を冷やすなどの適切な手当を行い、それでも回復しなければ、医師の手当てを受けさせること等の措置を講ずるべきで、使用者はそれらのことを上司に教育しておく義務があります。
しかし、上司が前述のような行動をとったことから、使用者が上司に対して十分な労働安全教育を行っていたとは認められず、使用者に安全配慮義務違反があるとされました。
使用者は従業員に熱中症が疑われる場合への対応について教育することはもちろん、この事例のように、教育した内容がきちんと実践されるか、有効性を確認することが重要といえます。
労災保険は業務上の事由または通勤途中の事故によって、負傷、疾病、高度障害、死亡等の被害を負った労働者本人やその遺族の生活を守るための公的保険制度です。
そのため、安全配慮義務違反と労災は判断基準が異なり、安全配慮義務違反と認められなくても、労災が認められるケースはあります。
では労災が認定されるケースは、どのような場合かも解説いたします。
業務中の熱中症は高温多湿な場所で作業を行った際などに、体内の水分や塩分のバランスが崩れ、体温調節機能がうまく働かなくなったときに発症するとされています。
熱中症が労災の対象になるかというと、労働基準法施行規則の別表第1の2第2号8で「暑熱な場所における業務による熱中症」と規定され、業務上の疾病として取り扱われているため、対象となります。
一般的には、熱中症を発症したと認められること(医学的診断要件)と、発症が業務に起因すること(一般的認定要件)が認められた場合に、労災による疾病と認定されます。
医学的診断要件
一般的認定要件
これらの二つの要件に該当すると判断された場合、労災保険から補償を受けることができます。
労働災害であることが認定されれば、治療費などについて労災補償給付がなされます。
また、通勤中に熱中症になってしまった場合も、就業のために合理的な経路および方法による移動中に熱中症を発症したと認定されれば、通勤災害として認められる場合があります。
業務上の疾病が労災として認定されるには、業務との間に相当の因果関係が認められる必要があります。
業務上の疾病とは、労働者が事業主の支配下にある状態において発症した疾病ではなく、事業主の支配下にある状態において有害因子にさらされたことによって発症した疾病をいいます。
熱中症が労災と認められるためには、熱中症を発病した日の作業環境や仕事内容、労働時間、被服の状況、身体の状況などが総合的に考慮され、仕事と熱中症の発病との間に相当因果関係があるかどうかが、労働基準監督署により判断されます。
そのため、業務中に発生した熱中症であっても、例えば前日の飲酒や寝不足、持病によって発症した熱中症など、他の原因が疑われる場合は認定されない可能性があります。
熱中症の原因が作業環境や内容だったと認められた場合は労災認定がなされ、労災保険の給付を受け取れます。
社労士または労働基準監督署に確認し、適切な手続きをとってください。
熱中症が労災に認定されるかは「熱中症でも労災認定を受けられる?その条件や申請方法もご紹介!」でも詳しく説明しておりますので、ぜひご覧ください。
厚生労働省が比較的容易に取り組める熱中症対策事例を挙げていますので、ここでいくつかご紹介します。
従業員に熱中症の疑いがある場合は、以下の「救急措置」を参考に対応をとりましょう。
この他の対策について、詳しくは厚生労働省「導入しやすい熱中症対策事例紹介」もご覧ください。
また、高温多湿な場所で作業を行う従業員に対して「睡眠不足や前日の飲酒、朝食の未摂取、体調不良なども熱中症の発症に影響を与えるおそれがある」といった健康管理について指導を行うことも重要です。
熱中症の発症に影響を与えるおそれのある疾患を持つ労働者については、高温多湿作業場所における作業の可否や作業を行う場合の留意事項を、産業医や主治医などに意見を求め、必要に応じて就業場所や作業の変更をするなどの対応も求められます。
企業には「安全配慮義務」があり、従業員が安全かつ健康に労働できるように配慮しなければなりません。
この安全配慮義務には、従業員の業務に関わる熱中症も含まれ、厚生労働省からも「職場における熱中症の予防について」の通達が出されています。
熱中症対策としてWBGT値を活用し、その他にも作業環境管理・作業管理・健康管理・労働衛生教育・救急処置の措置をとるべきとしています。
この通達の措置を怠ると、安全配慮義務違反と判断され、損害賠償責任を負う可能性があるので注意が必要です。
また、安全配慮義務違反にならなくても、熱中症は労災に該当するケースもあります。
熱中症対策をして、従業員が安全・健康に過ごせる職場を提供すれば、従業員も企業もリスクを負わずに快適に過ごせるでしょう。
神奈川県福祉共済協同組合では、神奈川県の中小企業や個人事業主の方向けに、業務中の熱中症も保障する共済"福祉共済の5つ星(傷害補償共済Ⅲ)"をご用意しております。
24時間のケガの保障に加え、業務中の熱中症による障害を保障し、共済契約者と被共済者とその同居のご家族を対象とした組合員サービスもご利用できますので、ぜひご活用ください。
また、安全配慮義務を問われた際のリスクに備える"労災費用共済"も合わせてご加入いただくことで、労災事故による損害賠償はもちろん、従業員の業務中のケガ、事業所の費用損失、弁護士費用等、事務所における様々なリスクに備えることができます。